モナムール

解離性同一性障害が、寛解するまでの独り言

雪女

汽車が出発を告げる。都会に行くのである。がたん、と動き出すと、哀れみのような感情に涙が溢れた。肌寒い季節である。窓硝子は曇っていた。手で拭っては、ひたすらに、段々と遠ざかる故郷を眺め続けた。遠ざかる故郷は冬のつららのような透明な、鋭い、美しさがあった。


次の駅に着くと、女が一人で入ってきた。若く、美しい女である。女は私の座る席から少しばかり離れたところに腰を下ろした。白いうなじに色気を感じた。私はひどく罪深いことのように思い、恥じ入るように視線を窓に投げかけた。


汽車がまた出発した。しばらく音を鳴らして走り続けていた。拭いた硝子窓に、女が鮮明に映ったのを見て驚いた。部屋からの灯りで、外の雪がぱらぱらと降る様が照らされていて、そして偶然にも、窓硝子に反射した女の姿と重なっていた。私は驚き、そして、まるで雪女のように思えた。私は魅入られたように彼女を見つめ続けた。しばらくして、彼女の柔らかな身体と、遠くの灯りが重なり、まるで幻想的に、燃えてるようであった。私にはこの女が、今この瞬間に、雪女が、存在を、雪のように溶かしているように思えた。


何駅か過ぎた。終点である。明日の朝になればまた汽車に乗る。私が宿を探しに歩き始めた瞬間に、「もし、そこのあなた」と声がかけられた。透明な、薄れ行くような声でやはり雪女のようだと思いながら、「なんです」と返す。すると「宿を一緒に探してくださいませんか」と言った。私は了承し、一緒に宿を探した。


しばらく歩いた。始終、我々は無言であった。ただ彼女の雪を踏む、虚ろな音が、彼女と云う存在を告げていた。しばらくして、やっと宿に着いた。私と彼女は手続きをした。私は即部屋に入り、寝床にごろりと横になった。彼女は生きているのだろうか。雪のように消えてはいないだろうか。燃えてはいないだろうか。不安ではあったが、確かめる勇気がなかった。意識は薄れていく。明日になれば全て分かるのだ。そう言い聞かせてみた。全ては遠ざかり、夜は静かに瞼を閉ざす。