モナムール

解離性同一性障害が、寛解するまでの独り言

薄暗い部屋での会話

フロイヤーは薄暗い部屋で新聞のある見出しに興味を惹かれ読んでいた。

題名には、「吸血鬼現る!」と書かれており、なんと被害者は老若男女問わず8人が犠牲になったらしい。

「葉巻を!」そう僕が叫ぶと、ブライスはけちけちと、元気に悪いだとか、そう文句を言いながら葉巻を持ってくる。

「君ね、気をつけなよな。僕の知り合いはタバコを毎日のように吸っては、日に日にやつれていったのだからねえ」

「それより、みたまえよ」

「おやおや、こんな時代遅れなモーレスの街に、時代遅れな吸血鬼かね!」

「ねえ、君は犯人は一体どんな心理で犯行に及んだのだと思うかね」

「怒りや社会に対する反感からでしょうか」

僕は手短な紙にペンで「fjfjfdhjrjrrxjxjdd」と書いて、ブライスに手渡す。

ブライスは慎重に眺めた後に、苛立ちを込めて僕に問いただす。

「それ一体どう意味だい」

「君こそ、どうしてそう問うのかね」

「そりゃ、理解しようと...」

「そう理解しようと!でも、本当にそれだけで説明しきれるのかね。君は君自身にでさえ理解できない欲に駆り立てられているのかもしれない。例えば、誰かに恋する理由を説明できないことがあるように、君もまた、そのような、言葉にならない理不尽な欲望に取り憑かれているのかもしれない」

「.....」

ブライスはしばらくあの文字の書かれた紙を見つめ、そっと僕を眺めた。

「実をいうと、この言葉がどのような意味なのか理解しようとするのは何故なのか僕にはわからないことに気がつきました」

「つまりだね、この吸血鬼事件の犯人を捕まえていくら調べ上げようと、いかなる心理で犯行に及んだのか、いっこうに読み解けないこともあるんじゃないかね。君自身が理解しようとする己の心理を読み解けないように」

「なんだか気味が悪いなあ。まるで僕という人間の内に見知らぬ他人がいるようだ」

「人間は誰かの代理人だよ。一つに、私は内に内在する見知らぬ誰かの代理人であるかもしれなければ、また、先程の吸血鬼事件の犯人の心理を読み取れたとして、それすら、また何かしらの歪曲された代理かもしれんのだよね」