会話-8/3
蝉の音はざらざらとしてるよね、なんて思いながら天井を眺めていた。
「嘘だと思わないかい」
ほんとうだよ。ほんとうかな。
「生きてるのかい。君は。」
そうだね。ずっと疑問なんだ。
僕って生きているのかな。
あのね。
世界が透き通ったクリスタルなんだ。
だから、儚く思えて。
人類の歴史は血濡れであると思う。
けれど、その...夜へと消えていった靄にはかつての笑顔が、笑い声が、悲しみが、苦痛が、痛みが、絶望が、つまり、人々の物語があったのだねと思うんだ。
それで、僕の今のこの瞬間も夜へと消えていくんだ。
安らぎは夜にあるんじゃないかな。
なのに、僕は消えた僕を知覚することなく、常に今この瞬間に縛られている。
「思うに
君は物語の生成と消滅の運動の中の登場人物でありながら、その枠を飛び出した[物語]を紡ぐものでもあるんじゃないかな。」
だれもが、そうだと思うよ。
「ぼくが興味深いのは宗教でさえ、あるいは、神でさえ、君という物語の中の登場人物であって、生成と消滅の運動から逃れ得ない儚いものとして現れてくることなんだ。」
それは気がつかなかったな。
ぼくは、いや、物語を紡ぐ僕自身は生成と消滅の運動に縛られているようで、同時にそうでもないということにならないかな。
「どうしてかな。
縛られてはいない僕を魂と呼びたくなるのはね」